静岡大学理学部/グリーン科学技術研究所 〒422-8529 静岡市駿河区大谷836 TEL:054-238-4784 |
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Top Kimura Member Research Publication Lecture Direction News | |
研究内容
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付加体の深部帯水層に生息する地下圏微生物の解析とメタン生成メカニズムの解明 | |
静岡県中西部から愛知県南部、紀伊半島南部、四国南部、九州南部、沖縄地方にかけての太平洋側の地域は、深さ10 kmにも達する非常に厚い堆積層(付加体)からできています。付加体は、海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込むときに海洋プレートの上の海底堆積物が大陸プレートの縁辺部にくっつき、その後、隆起してできた地層です。付加体は海底堆積物に由来しており、その堆積層には有機物が多く含まれています。また、付加体の深部帯水層には地熱によって温められた嫌気性の地下水と大量の天然ガス(主にメタン)が蓄えられています。 木村研究室では、付加体が分布する地域に構築された温泉用掘削井(深度1,000〜1,500mの掘削井が多い)を数多く調査し、高温の地下水(非火山性温泉)および温泉付随ガスを採取してきました。そして、地下水の環境データ測定、各種イオン分析、地下水の酸素・水素安定同位体比分析、温泉付随ガスの化学分析、メタン及び炭酸イオンの炭素安定同位体比分析を行ってきました。さらに、地下水に含まれる微生物群集を対象とした嫌気培養、16S rRNA遺伝子の解析、各種機能遺伝子の解析、全RNAの網羅解析、補酵素F430の検出・定量も試みました。その結果、付加体の深部帯水層には有機物を分解して水素ガスと二酸化炭素を生成する水素発生型発酵細菌と水素ガスと二酸化炭素からメタンを生成する水素資化性メタン生成菌が生息していること、これらの微生物群集が共生することにより堆積層中の有機物を分解してメタンを生成していることを明らかにしてきました。 |
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[学術論文] [講演動画] |
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温泉メタンを活用した分散型エネルギーシステムの開発と社会実装 | |
静岡県中西部から沖縄地方にかけての太平洋側沿岸の地域は、“付加体”と呼ばれる厚い堆積層からなります。付加体が分布する地域には数多くの温泉用掘削井が構築させており、それらの掘削井からは高温の地下水(非火山性温泉)と天然ガス(温泉メタン)が湧出しています。加えて、東京都東部から千葉県にかけての南関東地方、新潟県・山形県・秋田県の日本海側の地域、北海道西部の地域等も厚い堆積層からなり、それらの地域に構築された温泉用掘削井からも非火山性温泉とともに大量の天然ガス(主にメタン)が湧出しています。現在、温泉施設の安全利用の観点から、温泉水から分離された温泉メタンは大気放散されています。一方、メタンは二酸化炭素の25倍の地球温暖化係数を有する強力な温室効果ガスとして知られています。近年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)でも二酸化炭素排出削減に加えて、メタン排出削減の重要性への認識が高まりつつあります。 木村研究室では、県内の自治体及び企業と連携してメタンを湧出する温泉用掘削井とガスセパレーター、ガスホルダー、ガスエンジン発電機(コージェネレーション)を結合させた温泉メタンガス発電施設の創成を進めています。2017年4月には、島田市(静岡)、日比谷総合設備株式会社、ヤンマーエネルギーシステム株式会社と連携して、静岡県島田市の川根温泉にて温泉メタンガス発電施設を構築しました。現在、年間71万kWhの電気と年間69万kWhの熱を生産し、温泉宿泊施設にて有効利用しています。また、年間約5千トン-CO2の温室効果ガス排出削減効果を上げています。これらの取り組みが認められ、コージェネ財団よりコージェネ大賞2017民生用部門優秀賞をいただきました。 また、県内の自治体及び企業と連携して温泉メタン都市ガス化プロジェクトも進めています。2022年11月に東海ガス株式会社と連携して、静岡県焼津市の焼津温泉にて温泉メタン都市ガス化施設を構築しました。現在、1,700世帯分の都市ガスの製造・供給を行っています。また、年間約1万トン-CO2の温室効果ガス排出削減効果を上げています。 我々が社会実装を進めています温泉メタンを利用した分散型エネルギーシステムは、ガス・電気・熱を自給することができます。一方、付加体の分布域は、東海・東南海・南海地震の被害想定区域にも指定されています。そこで、巨大地震、台風、集中豪雨、大規模洪水、広域停電等の災害が発生した際にライフラインを自給できる“地域防災拠点”として機能させることも目指しています。 |
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[関連サイト] |
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原核生物の16S rRNAのG+C含量と生育温度の関係に着目した微生物生態学および応用研究 | |
リボソームRNA(rRNA)遺伝子は、原核生物をはじめ全生物の系統解析に広く用いられています。一方、原核生物の16S rRNA遺伝子のグアニン(G)とシトシン(C)の割合(G+C含量)は、原核生物の生育温度と非常に高い相関を示します。つまり、高温環境に生息する好熱菌や超好熱菌は高いG+C含量の16S rRNA遺伝子を有しており、低温および中温環境に生息する好冷菌や中温菌は低いG+C含量の16S rRNA遺伝子を有します。 我々は、原核生物の16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定したのち、そのG+C含量をもとに原核生物の生育温度を推定するための新たな研究手法“微生物分子温度計”を開発しました。微生物分子温度計は、16S rRNA遺伝子のG+C含量から環境微生物や難培養性微生物の最低生育温度、至適生育温度、最高生育温度を推定するためのツールです。さらに、培養法に依存せずに微生物を好冷菌、中温菌、好熱菌、超好熱菌に分類することも可能です。現在、地下圏微生物の16S rRNA及び16S rRNA遺伝子の塩基配列から地下の温度を測定する手法の開発に取り組んでいます。将来的には、地下圏微生物の16S rRNAのG+C含量から深部地下圏の温度環境および地下生物圏の限界深度を明らかにしたいと考えています。また、地質学、地震学、地球化学などの分野において重要となる地下の温度データの収集に貢献したいと考えています。 一方、砂漠の塩湖に生息する好塩性アーキア(特に、Haloarcula)は、ゲノム上に2〜3コピーの16S rRNA遺伝子を有しています。これらの16S rRNA遺伝子の塩基配列は異なり、また、これらのG+C含量は1-3%異なります。これまで、ゲノム上にG+C含量の異なる複数種の16S rRNA遺伝子を有することの重要性については明らかにされてきませんでした。そこで、原核生物の生育温度と16S rRNA遺伝子のG+C含量の関係に着目し“これらの好塩性アーキアは高温時にG+C含量の高い16S rRNAを含むリボソームを機能させて増殖する”という仮説を立て、検証しました。その結果、最高生育温度に近い高温での培養において、高いG+C含量の16S rRNAを多く発現することが示されました。昼間に50℃を超えることもある砂漠の塩湖や塩田から単離されたこれらの好塩性アーキアは、G+C含量の高い16S rRNAを利用して高温環境に適応している可能性があります。 |
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[学術文献] |
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研究設備 | |
嫌気培養装置 | |
ガス分析装置 |
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好気培養装置 |
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DNA・RNA解析装置 |
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落射型蛍光顕微鏡・撮影装置 |
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